十年目の奇跡
久しぶり
「なんで私が…。」
だるそうにしながらも、髪を触りながら鏡を見る。
一応身嗜みはととえないと。
28にもなれば隙を作る訳にはいかない。
出会いの場、気合いを入れなければ。
そう、私三上香澄は今日友人の結婚式に招待されている。しかも友人代表の挨拶を頼まれたから厄介だ。
視線が私に降り注ぐ。
そんな状況を考えただけで心臓が走り出す。
(やっぱり断るべきだったな…)
一応用意した手紙を小さなスパンコールの光るバックにしまい、履き慣れないピンヒールを鳴らしながら教会へと向かった。


「香澄ー!!」
教会に入るなり、久しぶりの友人達が私を呼ぶ。
「やだ、私が最後?」
自分なりに早めに出たつもりだが、懐かしい顔は揃っているようだ。
「まだ宏が来てないかな。」
昔からいつも仕切屋の美貴が話だす。
「宏、仕事あるらしくてぎりぎりになるって電話があったの。」
「宏って確か、実家のF県に帰ってるんじゃなかった?」
「あれ?香澄知らないの?」
美貴が宏の近況を詳しく教えてくれた。
ちなみに宏こと田畑宏之は、学部は違ったが同じサークルの仲間だった。
オレサマ風をいつも吹かせ、爽やかさも手伝ってか、あの頃隠れファンも多かった。
今は前の仕事を辞めて、この街で有名な企業で営業をしているらしい。
宏の名前を聞いてあの頃の気持ちが胸の中をサワサワと音をたてた。

「ぎりぎりセーフ?」
入口に立つ人影。
逆光で顔が見えない…。
でも間違いない。
「…。」
宏だ。


あの頃、宏はモテるのに彼女を作らなかった。
理由はいつも
『好きな人がいる』

それが誰だか知っているのは…。
私だけ…。

あぁ…、どうしよう…

久しぶりの宏に私は目を細めて見つめる事しか出来なかった。




「お前ケータイ変えたろ?」

宏の私に向けた第一声。
「あぁ、前の長く使ってて壊しちゃって…」
宏をわざと見ずに話した。
「何でも大切にする所、変わらないんだな。」

そういうと、男どもの中に割り込んで行った宏。

(あぁ…、宏は知らないんだ、賢ちゃんと別れた事。)
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