パーフェクトティーチャー
氷室は全力疾走したあとも、汗ひとつかかず、涼しい顔で口笛を吹いている。


「武田校長、ちょっと」


と言って、里中が武田のジャージの裾を引っ張り、貴賓室の外に連れ出した。


里中が目を吊り上げる。


「どう考えてもまずいでしょ、この状況。
高校の体育祭で世界記録が出たことが知られたらマスコミが大勢取材に来ちゃうわ。
氷室先生の秘密がバレちゃったらどうするのよ!」


「そうですね・・・
まずいですね」


「運動能力を人並みに設定しておいてちょうだいって、あれほど口を酸っぱく言ったのに。
どういうことなのよ」


「申し訳ありません。
日々の忙しさに追われておりまして、ついつい忘れておりました」


「嘘おっしゃい。
あなたが忙しいはずないでしょうが!」


「ちょっと理事長・・・
それはいくらなんでも心外ですよ」


「私、知ってるのよ。
教頭に全部の仕事を押しつけて、あなたが毎晩、銀座や六本木、歌舞伎町のクラブで飲み歩いてるってこと」


「毎晩だなんてそんな・・・
誤解ですよ。
一度か二度、慰安を兼ねて他の先生方と飲みに行っただけでございますよ」



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