微笑みと共に、世界は眠る



薄暗い廃墟ビルの中はあまりにも静かで、その静けさと暗さが、気持ち悪く感じる。
荒んだ階段をしばらく上って行けば、錆びれた扉が現れた。
古びた音を立てながら開けると、ふわりと風が中に入り、髪が靡く。

「………」

壮大に広がる紫紺の空に、壊れた街の下へと消え行く陽。
思わず涙を流してしまいそうな、そんな寂しい気持ちが込み上げる。
少し先の一段上がっているところに、少女の姿があった。

腰辺りまである白銀の髪に、白に黒の襟のセーラー服。
どちらもあまり見たことのないものだ。
振り返った彼女の表情は、冷たい。

「もう暗くなってしまうよ。早く、UGCへ戻るんだ」

しかし少女はその言葉に返事をしないどころか、向き直った。

「おい、聞いてい――」

「あなたは、この状況をどう思う?」

遮られて言われた言葉はあまりにも唐突で、青年は返す言葉が出なかった。
そして彼女は、続けて言う。

「地上では兵士が殺し合って、地下では他の人々がひっそりと暮らしている。……ねえ、どう思う?」

陽が昇り始めると殺し合いは始まり、陽が沈み始めると、殺し合いも止める。
青年が物心ついた頃には、すでにそうなっていた。

「決して、良いとは言えないけど」

「……そうよね」

じゃあ、と言って、少女は振り返る。
白銀の髪が、風に靡いた。

「こんな世界、なくなってしまえばいいのかな?」

そう言った彼女の表情は、切なげだった。



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