君に届くまで~夏空にかけた、夢~
積み重ねて来た幸せの積み木が猛スピードで崩れて行く。


その現実からわざと目を反らすように、鞠子の御袋さんは幼い鞠子に手当たり次第、ありとあらゆる習い事をさせ、教育ママになった。


ピアノ、バイオリン、茶道に花道、珠算、バレエ、護身用に極真空手まで……。


「……習字とか。凄かったらしいぜ。目の色変えて、まだ小さい鞠ちゃんに色んな事、習わせてたって」


そして、エスカレーター式の桜花附属幼稚園を受けさせ、鞠子の御袋さんは小、中学とPTA会長を務めた。


鞠子が中学へ上がる頃にはもう、安西家は完全に冷え切っていたという。


それだけじゃない。


「親がPTA会長だから」


あの子、PTA会長の娘なんだって。


前から思ってたんだけど、あの子、先生からヒイキされてるよね。


あんまり深く関わんない方がいいよ。


もめたりしたら面倒臭そうじゃん。


親、PTA会長だし。


「それが理由で、仲良い友達いなかったみたいでさ。鞠ちゃん」


あの子の家、すごいお金持ちなんだって。


授業終わるとすぐ帰んなきゃいけないんでしょ。


習い事、すごいらしいよね。


うちらとは住む世界も、金銭感覚も違い過ぎだよね。


でも、そんな鞠子にも心の支えになる幼なじみってのが居たらしい。


「千夏も幼稚園からずっと桜花だったから、そいつとも仲良かったらしくてさ。真っ直ぐで明るくて、誰からも好かれる人気者だったって言ってた。野球部だったらしいんだけど」


そして、いつものように授業を終えて習い事に向かおうとしていた鞠子に、幼なじみが言い出したらしい。

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