君に届くまで~夏空にかけた、夢~
ふたつ目の角を今度は左折。


車輪が唸ると、微かに焦げ臭いにおいがした。


「2塁を回って、3塁へ!」


打球はさらに伸びて、伸びて、ぐんぐん伸びて。


最後に緩い勾配を立ち漕ぎで一気に上りきった。


妄想の中の打球は、吸い込まれるようにバックスタンドへ。


「ホームラン!」


ガッシャアーン。


家の前に自転車を乗り捨てて玄関を横切り、裏庭へ回り込む。


喉がからっからだ。


「ばっ……ばあちゃんっ!」


裏庭の昼顔は陽射しを受けて、満開になっていた。


「ばあちゃんてばようっ!」


おれはスニーカーをべんべん脱ぎ捨てて、陽射しに蒸された縁側から家の中に飛び込んだ。


スパイシーな匂いが充満していた。


どしどし足音を立てながら、夕飯はカレーかとテンションが上がった。


「あーんだ、修司。今日は早いごど」


ばあちゃんは今の隅っこに座り、古新聞の上できぬさやの筋をむいていた。


「腹減って帰って来たんだがや」


真っ黒に日に焼けた、しわしわの小さな小さな手で、つつう、と器用に筋をむいている。


確かに、腹は減っているが、それどこじゃねえ。


「んでねえ! それどごでねんだって! まじで!」


年季の入ったちゃぶ台に両手をついて身を乗り出すと、


「ささっ! 何だじゃ、その汗!」


ばあちゃんはおれの顔を見るなり、頭に巻いていた手ぬぐいをべんっと投げて来た。


農協からもらった粗品だ。


「何や! この手ぬぐいよ!」


「まんず、ばがでねが、その汗や。その手ぬげで拭げ!」


「だーっ! ばがでね、やんたで!」


と口では拒否りつつ、明らかに尋常ではない汗を農協のマークが入っている手ぬぐいで拭く。


夏の、陽射しの匂いがした。
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