アカイトリ

朱と碧の対峙

屋根から降り立った二人を見て…


いや、一人を見て、居合わせた使用人全てが立ち尽くした。


天花が楓の腕に抱かれ、白い浴衣をかけられ、颯太の前まで連れられて行く。


「…いつになったら解放するんだ」


「お前をか?…まぁ、しばらくないと思ってゆっくりしろ」


本人は低く呟いたつもりだろうが、天花の声色に誰もがぞくりと身を震わせる。


朱い鳥の声は魅了の声――


人に変わったとしても、それは変わらない。


さらさら、と流れ落ちる髪を梳くって颯太は口づけをする。


「天花、碧も良い香りと歌声で始祖を虜にした」


怪訝そうに眉を潜めた天花の頬に今度は手の甲で触れる。


「俺はまだ歌声を聞いたことはないが・・・近いうちに俺のために歌ってくれ」





……碧が、人のために歌った…?



――我々の歌は、求愛行動。



雄と雌が互いの翼を広げ合い、重ね合ってつがいとなる。


無理矢理には、決して歌わない。



しかも、一度つがいとなれば死んでも離れないのだ。



悲しくて、残された方が恋焦がれて死んでしまうほどに…



神に呪われしこの身が、滅ぶ方法。



――朱い同朋がもし居なかった場合、狩られて死ぬか、否かの二択。



「部屋へ運びます」



楓が声を発したので天花は彼を見上げた。


何事か颯太と言葉を交わし、歩き出した楓に小さく天花は話しかけた。



「雄の瞳だ」


「…なに?」


「あの男と話している時のお前は、雌を見ている時の雄の瞳だ」



的確に言い当てられ、楓は取り乱してしまいそうな心を必死に理性で縛ると、いち早く主の前から離れるために早足で歩き出す。


「馬鹿なことを言うな。…殺すぞ」


主に憎まれたとしても…


主をこの鳥に絶対に奪われたりは、しない―――
< 11 / 160 >

この作品をシェア

pagetop