アカイトリ

碧の霊廟と誓い

本邸の西側隅に立つ濃紺の質素な箱型の建物の前へ立った。


両開きの扉には頑丈な鎖と封印の札。

隼人は一歩進み出ると、颯太に笑いかけた。


「ここを案内するのははじめてだな」


「ああ。親父殿にここに近付くといつもきつく叱られて、入ったことはない」


――かすかに漂う甘い香り。


「…凪」


「ああ。これは…天上の花の香りだ」


凪と天花はそこに何か、どこか懐かしさを感じた。


颯太もこの中に入ったことはない。

代々、当主が次の当主へ家督を譲る時に開くのみ。


「親父殿、何故今…」


「…今お前にここを見せるのが正しいと思えたのでな」


隼人が鍵を開けた。

不安が拭えない天花は颯太の隣に立った。


「…!」


そっと握られる、あたたかな手。


不安なのは一緒だ…


――ぎい、と扉が開き、人が四人も入れば手一杯な室内へと入った。


正面には掛け軸。

描かれた絵は――藍色の長い髪、藍色の瞳、目尻の下がった、特別穏やかな微笑を浮かべた絶世の美女だった。


操られるように、天花がその掛け軸の前へと立ち尽くす。


「碧…」


「それは我が始祖が碧い鳥の人の姿を描いた絵。さあ、こちらに来なさい」


部屋の隅にひっそりと石造りの石棺があった。


「この中を見るのは二度目だ。颯太、お前に家督を譲る時に私はここを開けるものだと思っていた」


「…すまん、親父殿。子を作らず、先に逝く俺を許してくれ」


――ぎり、と凪が唇を噛む。

天花はただ颯太の腕に絡まり、その時を待った。


「とにかく、皆には驚かないでほしい。…とはいっても、私もたいそう驚いたがな」


「…?」


顔を見合わせる三人を見つつ、隼人はずず、と重たい音を立てて蓋を開けた。


「…っ!?」


まだ全開ではないのに、皆が息を呑む。


「こんな…こんなことが…!」


そこにあったのは――碧い鳥の姿そのままで、眠りについたかのように身を横たえる、碧い鳥…葵の姿だった。


絶句する三人を前に、隼人は蓋を開ききると、眠ったかのような碧い鳥の身体を撫でた。


「神の鳥は朽ちない。数千年もこのままの姿で、ここに在る」
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