アカイトリ

獣としての本性

先に到着した颯太たちが馬から降りて三人で雑談をしていると、門の前で馬車が止まり、菖蒲と天花が降りてきた。


「…ん?」


仲良く手を繋ぎ、何故か満面の笑みに彩られている二人を見て颯太たちは首を傾げる。


「何だあれは?」


「つか何だよあの美女は!お前のこれか?」


小指を立てて下品な表現をした凪の胸倉を楓が掴み、ずるずると馬屋の方へ引っ張った。


「主人に干渉するな。ここに住むつもりならばここのやり方に従ってもらう」


引きずられながら愛想よく手を振ってくる凪に颯太がおかしさを隠せず笑っていると、菖蒲が先程よりも顔色を取り戻した様子で頭を下げた。


「もうだいぶ良くなりましたので帰ろうと思ったのですけど…」


「駄目だ。菖蒲にはここで医者に診てもらう。…そうだろう?」


そう言って菖蒲の腕を取ると、楓ほどではないが有無を言わさず天花が客室へ引きずって行く。


「おい、何があったんだ?」


急展開についていけず、颯太が声をかけると菖蒲が振り返って微笑した。


「女同士、話に花が咲いただけですわ。では後程」


…話に花が咲いた…?


――どうにも不気味だが、颯太はこだわる気質ではないので笑い声を上げながら客室へ消えて行った二人を見送り、頬をかいた。


「まあいいか。天花があんなに楽しげにしているのをはじめて見るしな」


「で…天花さんはもう颯太様に抱かれたのかしら?」


布団に寝かせ、医者の到着を待つ間に菖蒲が好奇心旺盛な瞳で問うてきた。


若干赤くなりつつ首を振った天花に対し、菖蒲は驚きを隠せずにため息をついた。


「まあ…あの方ったら…器用な方だと思っていたけれど、本当は不器用なのね」


「?それはどういう…」


菖蒲は花瓶に活けられた花に視線をやると、またため息をつく。


「大切にしすぎるあまりに手を出せないでいるのでしょう?全く…かわいい人ね」


――再び腹部がじくんと痛み、天花は腹を押さえながら立ち上がる。


「あいつを呼んでくる。もう医者が来るだろう」


背中を向けると、菖蒲が天花を呼び止めた。


「天花さん…?お尻のあたりに汚れが…」


「え?」


触れると、べとりと血液が手を汚す。


「な、何だ、これは…!」


声にならない悲鳴が喉を駆け上がった。
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