アカイトリ

碧い鳥の遺言

抱きたい。

けれど、泣かせてしまう…


颯太は再び背中に手を回し、もう片手で天花を抱きしめた。


「朝、言えなかったことを今言わせてくれ」


はらはらと流す天花の涙が胸を濡らす。


なぜこんなにも…

愛しいのだろう――


今まで抱いてきた女は数知れない。

だが、その夜だけの情事で、朝まで共に過ごすことはなかった。


天花。


俺の目にはもうお前しか映らない…


――颯太は声もなく泣き続ける天花が愛しくてたまらなかった。



「天花…お前が手に入らないのならば、たったひとつだけ願いがある」



先程までの威勢は天花にはなく、じっと颯太の言葉の続きをおとなしく抱かれたまま待っていた。



「俺が死ぬまで、傍にいてほしい」



驚きで瞳が丸くなる天花の滑らかな頬を、愛しさと共に撫でる。



「そう長くはない。長くとも十余年程だろう。親父殿より俺は早く死ぬ」



颯太には自身の天命が何故かわかっていた。


「天花。何もしなくていいから傍にいてくれ」


…それは、奇しくも碧が始祖に言った告白でもあった。


「…わたしは、人間が憎い」


「…ああ」


「神も…全てが、憎い…」


「ああ。わかっている」


こつん、と颯太の筋肉質な胸に寄り掛かる。



「約束は、できない。わたしがここを出て行きたい時は、何をしてでも出て行く」


「ああ、わかった。天花…お前が少しでも安らげるように、俺も全力を尽くす。どこまでも行こう。できればお前と共に生きたい。…逝きたい」



颯太はそれから何も言わず、ただじっとやわらかく天花を抱きしめ続けていた。
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