アカイトリ

盗賊の正体

「外に出たい」


思い切った風情で颯太の前に仁王立ちし、進路を阻む。


蔵へ向かう途中に起きた出来事だった。


「外に・・・か?」


「ああ。わたしを外に出してくれ」



両者しばし無言で見つめ合う。


半ば諦めつつも、屋根の上からの景色にほとほと飽きていた天花は、颯太の返事を待った。


「いいぞ」


…いともあっさり許しが出たことで、逆に拍子抜けする。


こんな鎖で束縛しているくせに、何故…


瞳を真ん丸にした天花を見て颯太が吹き出した。



「お前、なんて顔してるんだ。俺が断るとでも思ったのか?」


「ああ、断られると思った。…いいのか?」



詰め寄られ、はじめての天花のおねだりに颯太は若干嬉しそうにしながら頷く。



「いいぞ。そのかわり、俺も一緒に行くが、いいか?」



「ああ、もちろん構わない」


そう言った後で、手にした書物で肩を叩きながら思い出したようにある疑問をぶつけた。



「夜か、朝か。どっちだ?」


「朝がいい」


「だが…鳥のままで、か?」


――意地の悪い質問だ。

颯太は天花が日中でも人に変われることを知っている。


しかしその代償は凄まじく、三日三晩高熱でうなされたり、動けなくなるらしい。

碧の遺した書物にそう書かれていた。


「人になる。…多分大丈夫だ。その後少し寝込むことになるが」


「それは心配ない。俺がつきっきりで看病してやる。」


…納得のいかない部分はあるが、天花は実際颯太に飛び付きたいほどに浮かれていた。


人里にはじめて降りる。

そして碧が命がけで守った街。


「感謝する」


「いや、俺も嬉しいぞ。最近街に出てなかったし、それに天花、お前と日中を共に過ごすのははじめてだ。俺の始祖が…碧い鳥が…手を取り合い、守った街を、しかと見てくれ。そうすれば お前の中のわだかまりなど、すぐになくなる」


――颯太はぽんぽんと天花の頭を撫でた。


天花は嬉しそうに微笑んだ。
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