アカイトリ

凪との契約

なに…


一体、凪は何を言ってるんだ…?


――ぼんやりしている間にも、傷口を押さえている掌の間から血が溢れ出てくる。


いやだ…


いやだ、死ぬな…!



「天花、人間の命は儚い。お前が考えている間にも、そいつの命は短くなってきてるんだぜ」



どうすればいい?

どうしたらいいんだ?



…颯太を見る。

出血で顔は青ざめ、呼び掛ける声にも応えない。



「嫌だ…死んでしまうのか…?」



わたしは、神の鳥は、最も死から遠い存在の生き物。


わたしが今、ここで凪の契約を受け入れなければ、確実に今この場で、この男は死んでしまうだろう。



…お前も、碧い鳥の末裔なのに…!!



―――その天花の葛藤を、凪は面白おかしそうに眺めている。


「悩むことなんかねえぞ。十年は待ってやると言ってるんだ。ちっぽけな時間だろ?」


凪を見ては、颯太を見る。


握った手にぎゅうっと力が込められ、再び颯太を唇を震わせながら見た。



「行く、な…天花……」



――何度も何度も、凪に名を呼ばれた。


でも、何も感じなかった。


颯太が今、わたしの名を呼ぶ。


わたしに名をつけてくれた、あたたかさを与えてくれた人。


「駄目だ、痙攣が・・・!!」


激しい出血の為、颯太の身体が大きく痙攣し始めた。


「そいつ、死ぬぜ」


…憎い。


せっかく出会えた、碧以外の同朋なのに…


――決意を込め、「大丈夫だ」と颯太に優しく話しかけると、天花は立ち上がった。


「契約する」


にやりと凪が笑う。


「契約を違えるな。この男には決して手を出すな」


「ああ、いいぜ。たかが十年、何のことはない。天花、お前も忘れるな。俺と契約したことを」


「去れ」と言われ、楓が颯太を抱き上げ、風のように駆けて行った。


それに続き、天花も破れた着物をなんとか身体に絡めて踵を返す。

背後から声が追ってきた。


「俺も後で行く。せいぜい死なねえように看病するんだな」

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