その手で私に優しく触れて
好み
 男性の、キレイな手が好き。

 白くて、指が細くて、爪の形がオーバル形。

 でも、本当に女性の手と間違われそうな程の手はイヤ。

 よく見れば男らしく、ちょっと骨張った感のあるくらい、微妙にゴツゴツしている手が超タイプ。

 そんな手に私はまだ、一度しか出逢えてない。

 それは中学生の時。

 隣の席の菊川君がノートを熱心に書いている手にふと視線がいった時、そのあまりのキレイさに、脳天まで衝撃が走った。

 見惚れてしまって全く視線を外せず、その時の授業はさっぱり聞いていなかった。

 正直言って、彼の顔は全くタイプじゃない。

 人柄は、まあ、普通にイイ奴。

 その程度の認識だと、付き合いたいとまでは別に思えない。

 しかしながら、彼の手にだけは、「惚れたっ!」と断言しちゃえる程にゾッコンとなった。

 それからというもの、彼と話すたびに手ばかり気になり、彼が近くにいる時も彼の手ばかりに視線がいき・・・そのうち、その手で私に触れて欲しいと思うようになった。

 あの手が、私の頭を撫でてくれたら、嬉しくて舞い上がってしまうに違いない。

 あの手が私の頬を包んでくれたら、嬉しくてでも恥ずかしくて、顔から火が出そう!

 中学卒業後も、成長と共に妄想は続き、エスカレートした。

 私の髪の中に手を差し込んで、スッと髪をすいてくれたら・・・
 
 私の肩に手を置き、親指だけでスススっと肩先を撫でてくれたら・・・

 肩から手を下へ滑らせて・・・そっと、ふくらみに沿わせてくれたら・・・

 大切なものを扱うように優しく包み込んで・・・

 それから、それから・・・

 三十歳迄に、人並みに恋愛経験を積んだ。

 しかし、菊川君程に私の理想的な手を持つ人には出会えなかった。

 付き合う事になる決定打は人間性だ。

 手がキレイだからってだけでは、やはり付き合えない。

 そんな時、中学の同窓会を知らせる葉書が届いた。

 真っ先に頭をよぎるのは、あのキレイな手。

 あの手で私の乳房を優しく包み込み、乳首を軽くつまんでくれたら・・・

 そう考えただけで、一気に性欲が開花していく感覚が広がる。

 彼の手を私の中へ取り込んで、体の一部へ出来そうな錯覚が、大きな欲情となって私を突き動かす。

 身悶えしそうなほどの興奮で、私の妄想はとどまらない。

 彼の手で触れて欲しい場所を頭の中で思い描き、私の望み通りに動かしてもらい、私を快楽の海で溺れ死にさせる事を使命としてもらう。

 ああ、早く、会いたい。

 あのキレイな手に、早く・・・っ!

 月日が、彼の体型をどう変えたのか、この時の私は知りもせず・・・。








 
 
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