週末の薬指
『で、その立食パーティーに俺が行ってもいいのか?』

「うん……えっと、その。こ、こ、婚約者として……だめかな?」

『こ、こ、婚約者って、照れてるのか?』

くすくす笑う声が響いて、私の体は一瞬で赤くなったと思う。

婚約者なんてすらすらと照れる事なく口にできる言葉じゃないんだし、結婚の約束をしてからだって浅いんだから、口ごもるのは当たり前だと思うんだけど。

心の中であたふたしても、電話越しでは私の感情の起伏を伝えるのは不可能で、ただ無言のまま。

『婚約者、ってちゃんとすらすら言えるように頑張ってくれよ。ま、すぐに籍入れるから婚約者から夫に変わるのも時間の問題だけどな。で、花緒は妻?嫁?かみさん?どう呼ばれたい?』

「……」

私の顔はぐんと熱を帯びて、赤くなっているに違いない。
どうしてこうも私がどぎまぎ慌てて、無言になってしまうくらいに照れる言葉を次々と言えるんだろ。

電話越しじゃなくて、目の前で言われたら気を失ってるかも。

「あ、夏弥?」

どうにか気持ちを落ち着けて、ようやく呟いたのはたったそれだけ。

『ん?夕方寄りたいところがあるから少し遅れるけど、ちゃんと行くよ。花緒と一緒に社長賞受賞をお祝いしたいしな』

「うん……じゃ、詳しい事はメールしておくから。……待ってる」

『花緒?』

「え?」

『俺的には、嫁さんってのがいいんだけど』

「なっ……」

最後の最後まで、私の気持ちを落ち着かせてくれない男だ……。

『嫁さん』って、そんなの、嬉しすぎるし幸せすぎる呼び方。

大好きな夏弥からそう呼ばれて、堂々と笑っていたい。

じゃあな、と言いながら笑いがおさまらない夏弥との電話を終えて、ふわふわと幸せに包まれた感覚を味わいながら、緩みに緩んだ顔を一生懸命もとに戻した。
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