週末の薬指
どれだけの時間を夏弥さんの胸の中で泣いていたのか、思い返してもはっきりとわからない。

背中を何度も撫でてくれながら、『ゆっくり呼吸しろ』と囁いてくれた事と、時々私の荒い呼吸を遮るようにキスをしてくれた事しか覚えていない。

夏弥さんが私に告げた言葉に混乱したせいか、過呼吸のような症状が出た私を気遣うようなキスだった。

私の体を大切に抱きしめてくれる夏弥さんに体を預けながら、私は苦しい呼吸の合間に夏弥さんに

『ごめんなさい……仕事、遅れますよね……』

そう言って仕事に出かけてくれるように言ったけれど

『バカじゃないのか?花緒がこんなに苦しんでるのに仕事になんて行くわけないだろ』

あっさりと流された。

その淡々とした言葉がどれほど嬉しかったか、それは私の夏弥さんへの気持ちの強さに比例していて、はあはあと息をしながらも、気持ちは穏やかになっていくようだった。

しばらくすると、私の呼吸も気持ちも落ち着いて、夏弥さんのほっとした笑顔が戻った。

それでも、まだ私の体を心配する夏弥さんだったけれど、仕事に出かける前の彼にそれ以上の迷惑はかけられない。

一人で家まで帰ると言ってみたけれど、即却下されて。

結局、夏弥さんが運転する車で家まで送ってもらった。
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