絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「そう、それも気になってたんだけど。まだ余力があるみたいだから仕事他にも持ってもらおうかな、と」
「えっ?」
 香月は驚くほど煌いた表情を見せた。
「現場監督と、牧先生と一緒に、現場を視察しに時々行ってほしいんだけど」
「ええ!? そんな大事なこと……」
「まあ、最初は僕も行くから」
「そんな、私だけでですか!?」
「僕は最初から、牧先生に近い香月がやった方がスムーズだと思ってたんだけどね。僕が必要な時はもちろん行くから、だから、僕の代わりに行って、報告してほしい。けど、今その牧先生のことを聞いて、ちょっと躊躇ったけど」
「いえ、大丈夫です」
「なら頼む」
 宮下は興奮気味に返事をする香月に笑顔を向けた。
「他の人、不審に思いませんかね」
 だがすぐに香月は沈む。
「え、何で?」
「だって、なんか、仕事できない私がなんでって……」
「そんなことないよ、牧先生担当は香月だから。皆そう思ってる。わりとうらやましがってるよ、なかなかできないパイプだって」
「パイプって……そんなパイプ」
「ハンコ、お願いします」
 良いタイミングで朝比奈が入って来た。
「はい……。今度から現場の視察、香月さんに手伝ってもらうから」
 それを聞いた朝比奈の目が一瞬見開き、驚いたがすぐに隠した。どうだろう、香月には今の朝比奈の表情に気付いただろうか?
「あ……はい……。香月さん……、頑張ってくださいね」
「え、あ、はあ……」
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