絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

巧妙な罠の前では、正直者は救われない

「あのさあ……浮気って……というか、不倫ってどういう時にしたくなるんだろうね……」
 珍しく巽が約束を守って時間をとってくれたおかげで、ゆっくり落ち着いてディナーの時間がとれる。巽が忙しい間、滅多に近づけない人種と出会うこととなり、その状況をすぐにでも報告してアドバイスを聞きたかった。
だが巽は、簡単に、
「自分の経験を元にすればよく分かるんじゃないのか?」
 わりと、出だしのことを意外にも根にもっているようである。
「……不倫の場合……旦那さんとうまくいってない時かな……」
「人にもよる」
「どうしよう……あのね、最上がさ……、覚えてる?」
「ああ」
「不倫旅行……じゃないと思うんだけどなあ……。けど私が悩んでも答えは同じかあ……」
「だろうな」
「あー……」
「ところで」
 巽は完全に話題をうつるタイミングを計っていたようだ。
「何?」
「最近、紺野とはどうしている?」
「こんの……? ああ、うん……この前電話あったけど、別に。どうも。暇なんじゃないのかな」
「どんな内容だった?」
「えー、知らない」
「知らないことはないだろう?」
「え、何、疑ってんの?」
「何を?」
 巽はワイングラスを傾けながら知らん顔をしたが、気にしていることは確かなようだ、珍しい。
「えっとぉ……。別に。本当何もないよ。今何してんの? 的な。私もその時ごたごたしてたしさ、それに、上司の友達ってあんまり関係ないからすぐ切ったよ」
「珍しいな」
「なによ(笑)。どういう意味?」
「いつもはだらだら関係を引き伸ばすだろ?」
「え、何が?」
「……すぐ友達になる、ということかな」
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