絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
つまり、どこからが浮気なのか
 巽の力ではない、自分の力でこのような場所へ来ることなど不可能と言い切ってもいい。
 四対ヒルズビル53階はフロア全てがパーティ会場になっており、夜な夜な金持ちのドラ息子達がパーティを開くことで有名らしかったが、もちろん香月がそのことを知ったのは、今日のことであった。庶民とは無縁の地帯と言っても過言ではない。
『あの、お願いなんですけど……』
 という久々のフレーズで始まった最上のお願いは、珍しく割りのよい話であったことに驚いたほどであり、後に自らが庶民であることを確信するはめになる。
「なあにぃ?」
 金曜日の午後10時にかかってきた電話は、実に久しぶりのことだったが、「久しぶりー!!」の高い声をあえて出さずに、そのお願いをまず聞くことにした。
『私、来週の金曜日の夜、ちょっと夜出かけられることになったんです』
「……」
『で、あの、四対ヒルズで知り合いがパーティするんですよ。それで……』
「待って。四対……ヒルズ」
 真っ先に浮かんだのは、あの高級ホテルのロビーで巽と歩いていた四対家長女の澄ました顔。四対ヒルズは、最近できたばかりの話題の高層ビルで、テレビで何度も名前を聞いていたはずなのに、ふと今あの四対と繋がったのだった。
『で。それで一緒に行ってほしいんですけど……』
「え、どんなパーティ?」
『私の知り合いの友達が主催のパーティで、特に何だからというわけではなさそうなんですけど……あの、その人の名刺があったら入れるそうで、あるんです』
「え゛、どうしたのそれ!? それに、私からすれば全然知らない人だよ?」
『いいんですよ。友達連れて行ってもいい? って聞いたら、いいって言ってくれたから』
「……なんで一人で行かないの?」
『いやあの、高級ビルだからきっとおいしい物もあるだろうなあと思って。それに、そういう所にいける機会ってなかなかないじゃないですか。だから……香月先輩を誘ってあげようかなと思って! だってパーティって基本食べるだけじゃないですか』
「いやまあそうだけど……」
『それに私、滅多に夜遊びできないけど、今回はチャンスをつかんだのです!!』
 その、本当にうれしそうな声に、行ってあげないとは言いづらく、
「うーん。じゃあ、行く?」
『うわー!! ありがとうございます!! あの、ちなみに、うちの旦那と会ってもこのことは内緒ですよ』
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