絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

清楚で気品あふれる美人

 学生時代、給食の時間が好きだった。
 それは今でも変わっていない。
 あの頃はデザートが時々ついたが、今は自分で何でもつけられる。大人になって、自分は自由になったのだ。
 香月は午前中の仕事の疲れを吹き飛ばすように、チョコレートケーキセットとカツ丼小をテーブルに並べて満足していた。これで、500円の社員価格いや、社員破格である。飲み物がコーヒーか紅茶と決まっているところがちょっと痛いが、500円なら仕方ない。砂糖を4杯入れることにしよう。
 角砂糖を4つとミルクを2つソーサーに置いてのいただきます。甘党の香月はこれをブラックで飲む人が信じられなかった。
 食堂のテーブルは、長机がいくつかと、4人がけの丸テーブルになっているが、4人がけはすぐに埋まるので、たいてい長い方で相席になる。大体食事は、人気者の今井と違って1人のことが多いので、今日も男性社員の1つ隣席を空けて、座った。もちろん向かい側にも誰かいたりいなかったり。
 ところが今日は、香月が腰掛けるなり周りが立ち上がったので、突然静かになる。落ち着いて、ケーキが食べられそうだ。
 ふと、一つ隣の男性社員が見える。弁当だ。そう、持参した弁当を、食堂の物とあわせて食べる人もちらほらいる。宮下がその例だ。コーヒーは、水筒じゃ物足りない、というのが理由らしい。
 今日の隣の男性は、それはもう、料亭で出されてもおかしくないほどの出来栄えの弁当であった。彩りから、何から何まで違う。にんじんの煮物はちゃんと桜型になっているし、キュウリも扇のようになっている。香月はこれほどまでに凝りあげられた手作り弁当を、社員食堂では見たことがなかった。
「……!」
 しまった!! 凝視しすぎた!!
 男性社員はこちらの視線に気づいたのか、目が合ってしまう。
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