怪談短編集

「じゃあ、売れないミュージシャンか」

 トゥークは音楽にはかなり詳しい。だから、トゥークが知らないアーティストは相当珍しいのだ。

「ま、いっか。次行くぞ」

 次の展示室も、まだ芸能人の人形だった。

「あ、へちゃむくれのジェイだわ!!」

 リリーがキンキン声で喚いた。

「へっ!全然似てないや!」

 ケイシィはそう言って、人形に蹴りを入れるフリをする。他の観覧者がいなくて助かった。

 トゥークは見た。ケイシィをもの凄い形相で睨む人形を。

 その目は、さっき見たのと同じだった。

 この目は、人形じゃない…!!

 これは、人間の目だ!!

< 62 / 195 >

この作品をシェア

pagetop