風味絶佳~嘘からはじまる2人の関係~
そしたら、彼はこう言った。

『香坂さんが適任だと思った。
先程の祖父に対する君の堂々とした態度からも俺の判断は間違ってなかったと思ってる。
それに、君は俺のこと苦手なんだろう?
これはあくまで芝居だ。相手に本気になられては困る。』

・・・・・・。

この人女性が皆、自分のこと好きになると思ってるの?

あなたの言い成りになるとでも?

彼は私の触れてはいけない敏感な領域に触れてしまった。

『私に断る余地はあるんですか?
だって、会長に宣言してしまった後じゃないですか。』

だから、わざと非難のこもった言葉を私は投げかけた。

だけど、彼は悪びれもせず。

『そんなことはない、あるさ。
ただ、君がこの役を断ったら、俺は祖父さんの選んだ相手と結婚するしかなくなるだろうね。
他に代役を立てても信頼されないだろうからな、そうコロコロ相手が変わったら。』

つまり、それってもしそうなったら安曇さんを助けなかった私のせいって言ってるのよね。

『少し自惚れすぎじゃないですか?
全ての人間があなたのこと好きになる訳じゃないんですから。
少なくとも私は違います。』

彼の目から視線を外すことなく、私ははっきりと宣言した。

誰にだって言ってはいけない言葉がある。

安曇さんだから許される訳じないんだから。


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