魔王に甘いくちづけを【完】
―――瑠璃の森?

そういえば、私一人じゃなかったはず。

腕を掴まれた感覚があったもの。



“駄目!!そっちは、ユリアさん!!”



ナーダの声じゃなかった。

そう、あれはきっと、リリィだわ―――



「もう一人・・いたでしょう・・・その子は・・・?」


「あぁ、もう一人は別の部屋にいる。まだ意識はないが時期に目覚めるだろう。あいつらは、馬鹿みたいに体が丈夫だからな。怪我なんか何処にも無かったぞ。安心しろ。お前は、自分の心配だけしとけ」


「そう・・・ですか・・・よかった・・・」



男がバッと後ろを振り返る。

誰か、来たみたい。


「おい、フレアが呼んでるぞ」


「あー、そうだったな。・・・・お前、ちょっと待ってろ。いいか、あんまり動くんじゃないぞ」



額にひんやりとした布を乗せて、男はスタスタと部屋から出ていった。


暫くすると部屋の中に、ほんわりといい香りが漂ってきた。


「ねぇ、貴女、食欲はないと思うんだけど・・・」


脇のテーブルの上にことんと置かれたそれから、その香りは漂ってくる。

カチャカチャと音がした後、唇に少し熱い物が押し当てられた。



「私はフレアっていうの。心配しないで、ほら、口を開けて・・・。少しでもお腹に入れないと、体力が付かないわ」



―――ね?食べて・・・と言って、少し強めに押し付けてきた。

さっき飲まされた薬の効果なのか、体の感覚が鈍くなっている。

体の痛みは薄らいだけど、お腹が空いてるのかどうかも分からない。

ゆっくりと少しだけ開いた口の中に、するんとそれは入ってきた。

とろんとした柔らかい半固形物が、口の中で蕩けていく。

ほんのり甘くてあたたかいそれは、思いのほか飲み込みやすくて、するすると喉の奥に入っていく。

フレアはそれを知っているのか、どんどん口の中に放りこんできた。



「貴女、随分長い間眠っていたのよ。これはね、こう見えてもとても体力がつくし、傷をいやす効果もあるの。ほら、これが最後の一口よ。・・・そう、いい子ね・・・」
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