魔王に甘いくちづけを【完】
「ごめんなさい。それは、まだ・・・」



―――心当たりはあるけれど、はっきりそれだと言えない。

どうしてなのかしら―――



首を横に振って俯いたら、一歩近づいたバルの胸に顔が押し付けられた。

後頭部に当てられた掌と背中にまわされた腕で、体全体が引き寄せられる。



「そうか・・・だが、思い出すのも近いだろう」

「ありがとう、バル・・・私、何てお礼を言ったらいいのか。とても言葉では言い表せないわ」

「俺に名を呼ばせてくれ。そして、俺を選んでくれ。それだけでいい。感謝の言葉などいらん」





・・・欲しいものは、言葉じゃないぞ・・・




髪に吐息がかかって、バルの腕に力が入っていく。


これ以上このままでいたら、更に困ったことになりそうな雰囲気を持ってる。



「バル、聞きたいことがあるの」


気をそらす目的もあるけど。

カフカのこと、バルが見てきたものを聞かせて欲しい。

胸が潰れそうな事実はあるだろうけど、きちんと向き合わなくては。

そんな思いで話しかけているのに「ん、何だ?」と返したきりで包み込んでる腕も体も全く動かない。



今夜のバルは、理性のタガが外れたように触れてくる。

きっと久しぶりに会ったからよね?

明日にはいつものバルに戻っているわよね?

でないと、困ってしまう。

変に拒んだら、強引にされそうな強い気持ちがヒシヒシと伝わってきてるもの。

こんな風におとなしくしてるのが一番なのだけど・・・かと言って、ずっとこのままというわけにもいかないわけで・・・。

出来るだけ刺激しないよう、てのひらで厚い胸板をそっと押して再び話しかける。



「教えて欲しいの。これは、どこにあったの?」


「・・・カフカの城は・・・5つの建物で成り立っていた。中心に四角い建物があり、それを囲むように四つの背の高い塔が建っているんだ。これは、そのうちのひとつ、最奥の塔の最上階の部屋。そこでザキが見つけた。引き出しの奥に、隠すように入っていたそうだ」


「塔の・・・バルもそこに行ったの?」



胸をぎゅっと押しかえして懸命に見上げると、首が縦に振られていた。
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