魔王に甘いくちづけを【完】
誰にも会うことなく辿り着いた最下階。

廊下の突き当たりに見えてきたのは、古びたドア。

豪華な飾り彫りもない素朴で平らかな様式は、今の城には似つかわしくないように感じる。

所々にうっすらと色がついてるのは、もともと塗られていた緑色がかろうじて残っているからだろうか。

歴代、王が手を入れ荘厳さを保ち続ける城の中で、唯一ここだけが時の流れそのままに置かれているよう。


「古の約束に護られ、ここだけは、いかに魔王といえど手が加えられんのだ。魔力が及ばん。一歩中に入れば、私は無力となり何もできなくなる」


貴女に危険が及んでもすぐには助けられん。腕に乗ってる私の手に触れながら、不安とも苦しげとも聞こえる声色でそう言って、セラヴィは慎重にドアを開けた。



見た目軽そうに見えたそれは、随分ぶ厚い木で作られていた。

長い間開けられていなかったのだろう、ぎぃ・・と重く軋む音をたてて塵が宙に舞う。



―――ティアラの部屋・・これが―――


階段の穴と同等の闇が口を開ける。

目を凝らせど、床があるのかさえ分からない。

廊下にある作りつけのランプシェードの灯りは頼りなく、入口付近を照らすだけで中までは見通せない。

・・・少し・・じゃなくて、かなり怖い・・・かも。

暗闇、先の見透せないことには、怯える。


「・・・私が先に入る。暫しここで待て」


無意識にも強く絡みついていた私の手を腕から剥がして、セラヴィの背中が闇に溶け込んでいく。


硬質な足音が聞こえて来て、固い床があるのだけは伝わってきた。


「・・貴女も来い」


突然暗闇からぬっと現れた手に手首を掴まれて中に引きずり込まれる。

入る瞬間ぬめっとした感触に襲われ、おまけにカビ臭さもあって目を瞑って息も止めていると、後頭部が支えられて額に温かく柔らかなものが触れた。

それは、小さな音を立てながらゆっくり離れていく。



「っ・・今、貴方は何をしたのですか」

「愛しい妃に誘われれば、応えるのが男というもの」

「・・っ、誘っていません」



きつい反論はくぐもってしまい、拒絶効果は半減する。

頭だけでなく背中までをしっかりとらえられて、腕をばたばたさせてアピールしてもどうにも出来ない。


この方はなんてことをするのか。

うっかり目も瞑れないなんて全く気が抜けない。



「それに、妃でもありません。離して下さい」
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