恋のレシピの作り方
 奈央の言葉を呑み込むように、温かな感触が唇を覆った。

 一条に口づけられたと実感できないまま、唇が離れていった。そして、その瞬間、自分以外の熱い吐息が唇を掠める。

 刻み込まれたその感触に、近距離で見つめられた瞳の奥深さに、奈央は微動だにできずにいた。

「一条さ―――」


「お前の事、信じてる……だから、何も言うな」


 そう言って、一条は奈央の頭をひと撫ですると、背中を向けて歩き出した。



(自分の部下をも殺そうとするなんて、オーディンってなんて酷い神様なんだろう)


 奈央は今でも温もりが残っているその唇に指をなぞらせて、一条の背中を見送った。
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