恋のレシピの作り方
 そのオレンジ色の中に黒い人影が浮かび上がる。

「なんだ、おまえか……」


 一条は煙草の紫煙を夕空に燻らせながら、ゆっくり振り向いた。そして奈央だとわかると、力なく笑ってまた背を向けてしまう。

「やっぱりここにいたんですね」

 いつか同じようなセリフを一条に言われたことがある。奈央はふとそんなことを思い出しながら、おもむろに歩み寄っていった。

「なんでここにいるってわかった?」


「前に一条さんがここで私を見つけた時と同じ感覚……でしょうか?」

 奈央が半分冗談めいて言うと、一条は鼻を鳴らして小さく笑った。

「それは……?」

 一条の手元に目を落とすと、その手には一枚のレシピがあった。一条は今まで、このレシピに目を通していたようだ。けれど、フランス語で書かれているため奈央には全く内容が理解できなかった。



「……それ、なんのレシピですか?」


「これか……? 別に、まだ考案中のものだ」

 何度も書き直した筆跡がある。奈央はこの紙一枚に、集約された一条の想を垣間見た気がした。


 
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