恋のレシピの作り方
第五章　ヴァルキュリアの失墜
「うん、よし！　完璧」

　なんとか間宮夫妻到着までにスープを完成させ、味見をしても絶品と思えるほどいい出来に奈央は満足の笑みを浮かべた。


「おい、春日、できたか？　こっちはなんとか落ち着いた」

　汗の滲む額を前髪とともに掻きあげながら、一条が厨房に戻ってきた。そんな仕草でさえもセクシーに思えて、気を抜くと思わず手を止めてしまいそうになってしまう。奈央はそんな雑念を振り切って、仕事一色に頭の中を切り替えた。

「一条さん、はい、できてますよ」

「あぁ、結局お前のレシピ確認してやれる時間なかったな、レシピ貸せ」

　催促するようにひらひらと手を出す一条に、奈央は素早くレシピを渡した。

　角度によってブラウンにも淡いグリーンにも見える瞳を左右に動かしながら、一条は黙って奈央のレシピに目を通した。

　そして、実際に作ったスープを見ると、小さく眉間に皺が寄ったのを奈央は見逃さなかった。

「あ、あの……」

「おい」

「は、はい」

　上出来だと思っていたスープが、なぜか冷たく見下されてる。

　徐々に迫ってくる嫌な緊張に奈央の身体が強張り始めた。
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