ホクロ
ホクロ
白い白い朝だった。

目覚めた場所は、初めて訪れた男性の部屋で、その男性は昨日私の彼氏となった人。
枕元を見上げれば、彼は小さな寝息を立てていた。
その長い腕は、私の腰に絡めたままで。

美容室にお客様として来た彼の、担当をしたのが私だった。

目元までかかる前髪を何とかしてくれればいい、ってぶっきらぼうに言うから、思い切って短くしたら暴いた素顔は意外と素敵だったのを覚えてる。男らしい骨格の輪郭に、セクシーにも見えた唇と・・・その唇の中のホクロ。イスに座る彼が少し顎を上に向ける時だけチラッと見えるそれに、持ってかれた。

半年経って、彼が3回来た頃に、私達は付き合う事になった。
ただ仕事帰りに偶然会って、お酒を呑んで、そんな話になっただけ。
お互いフリーだね、って言って、じゃ付き合う?って、そんな感じ。

これから彼を好きになれるのか、とか、いいトコロを見つけられるのか?とか不安が無かったワケじゃないけれど、私を縛り付けたのは、彼の唇にあるホクロだった。


*


見上げて、そこに存在するホクロに、そっと触れた。
特に肌と何も変わりはないけれど、触れて、ジンと身体の芯が痺れた。
同時に彼の唇にも触れた事になってしまうんだけれども。

「・・・ん。」

小さな唸り声を上げて彼が目覚めた時、私の人差し指は彼の唇に触れたままだった。

「・・・好きな?ホクロ。」

「え。」

知ってたの?

「してる時、ずっと見てたから。」

彼の無表情からサラッと繰り出された言葉に、昨日の情事が脳裏を過ぎる。1年振りの行為に、我を忘れる程トロけさせられた。赤面を隠したくて布団を引き上げたのに、彼は指で私の顎を固定して、それをさせなかった。

「もう一回、触っていいよ。その代わり、」

目の前の、彼の喉が大きく揺れる。

「昨日より、もっと恥ずかしい事、するから。」

直接耳の中に落とされた内緒話。
いきなりのコトで身体が跳ねた。

「それは、もう触るな、って事なの?」

純粋に、迷惑だったのかと不安に襲われる。
だから、私が恥じて触らせない様な提案をしたのかと。

「違う・・・、朝から、する口実。」



冷静そうな見かけに寄らず、熱い人だった。
熱血とかじゃなく、指先も唇も、私に触れる所は、全部。

朝のありがたい光を浴びて、彼に泣かされた。

恥ずかしい事を、されて、して。

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