【番外編】ルージュはキスのあとで

 考えてみれば、広がるのは当たり前だ。

 彼の兄である神崎進は、いまやメディアに引っ張りだこのメイクアップアーティスト。

 彼らが小さいころに離婚して、彼は父親に引き取られたとはいえ母親はあのエステ界ではトップクラスの「たくみビューティーサロン」の社長だ。

 そして、彼の父親はコスメ界の重鎮「シャイニング」の社長だ。

 その上、この容姿。
 噂なんて勝手に広がっていくことだろう。

 そんな彼が、うちの雑誌のメイクをしてくれたら。

 それだけでも話題性がある。
 だからこそ、私は彼にオファーをだしたのだ。

 しかし、目の前の彼はどこか不機嫌だ。
 やっぱりこの仕事はしたくなかった、ということなんだろうか。

 今日、ここに来たのは断りにきたのだろう。
 予想はついたが、契約は契約。

 長谷部京介が勤めている先の会社では、オファーを受けてくれたのだ。
 簡単には解約はさせないわよ、おほほ。


「それで? 今日はどういったご用件で?」

「今回のお話ですが、お願いがあるんですが……」

「お願い?」



 ちょっと意外だった。
 私は、てっきり断りにきたのだと思っていた。

 だが、一応は今のところはやる気はあるらしい……。

 まぁね、親会社のほうがオファーを受けてしまった以上やらないわけにはいかないだろうけど。

 こういう世界は、繋がりを大事にする。

 一度なにか問題があったり、もつれたりしてしまうと、なかなか関係は修復できない。
 そのあたりは、重々承知のことだろう。

 さて、彼はどういった条件を突きつけてくるのだろうか。
 少しだけ興味を持って、彼を見た。




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