プライマリーキス 番外編&溺愛シリーズ
「ありがとう。来てくれて……嬉しいわ」
「君に泣きつかれたら、ノーとは言えないだろう」
「美羽も久しぶり。驚いた。大丈夫? 手を出されていない?」

 真剣な顔をしてジョークを言う彼女の癖に和みながら、私は大丈夫と応える。

「一人では勇気がいるんだよ。夫ありの女性を誘うにはね」
 と市ヶ谷副社長は曖昧ににごした。

 市ヶ谷副社長とミシェルを見ていると、なんだかとても絵になる。ミシェルの旦那さんと一緒のときとは違う。

 男女の親友同士っていう雰囲気なのかな。でも、ミシェルはきっと市ヶ谷副社長がまだ彼女を好きでいるとは知らない。

 市ヶ谷副社長だって直接的に言っていたわけじゃないけれど、そうだってことだし。

「美羽が一緒だなんて驚いた。黒河社長がまだご立腹なんじゃないかしら?」

 ミシェルがさらに茶化すように言うので、私は肩を竦めた。

「ウィルを預かったときも、色々大変でした」
「へえ。その色々を訊いてみたいもんだね」
 と市ヶ谷副社長が私とミシェルを交互に眺める。

「もう、二人でからかわないでください」
「美羽はすぐに顔に出るんだから」

 そんなミシェルは産後なのに少しも変わらない感じがする。久美ちゃんはぷっくりしていたりしたけれど。

 私の方こそ彼ら二人を眺めていると、市ヶ谷副社長が腕時計に目をとめて、ミシェルにウインクした。

 ……え?


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