天使の舞―前編―【完】
「乃莉子をこちらに渡せ。
その人間は、俺の妃になる女だ。
こいつは俺に愛されて、そして俺を愛し、背中には黒い翼が生える。
その黒い翼はこちらの世界に繁栄をもたらし、三つの世界は均衡を保つ。
人間を射止めた俺が、覇権を握る覇王となるんだ。」


アマネは自分の言葉に酔っているかに見える。


美しい真紅の瞳からは、妖しく危ない思いが溢れていた。


少しずつ、ベットから降りるようにキャスはじりじりと動く。


そして、ベットの縁にたどり着き、足が床に着いた。


「そんなに欲しいなら、覇権なんか、魔界にくれてやる。
お前が覇王になればいいさ。
でも、乃莉子は絶対渡さない。」


キャスは言い終えると、乃莉子を抱え、壁の向こうの鏡に向かって走り、ためらうことなく飛び込んだ。


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