スイートなメモリー
「もう俺嬉しくて嬉しくて。平日も携帯にメールくれたりするんだよね。惚れられたなあと思ったら嬉しくてねえ。念願かなって嬉しいったらないんだから。今日もまたメールくるかも。次にデートした時なにしてやろうかと思って楽しみで仕方なくてさあ。ていうかなんで今日もお客は俺だけなのかしら? 他に誰かいたら是非先達のお話を拝聴しようと思ってたのに」
「で?」
ソファに腰掛けた雪花女王が、足下に正座させている若い女性の太ももにピンヒールを突き立てて、俺にその日何度目になるかわからない「で?」を口にした。
正座している女性は四○四に新しくメイドとして雇われたM女性だ。
今は研修期間として雪花女王から趣味半分の調教を受けている最中。
黒いエナメルで仕立てられたミニ丈のメイド服が良く似合う。
「で、彼女名前なんていうんでしたっけ?」
来店した時にも聞いたはずなのに、もう名前を忘れてしまう。雪花女王が、手にした乗馬鞭で彼女の頬を撫でた。
「学人さんは貴女の名前をまだ覚えられないそうよ。ご挨拶が十分ではなかったんじゃないかしらねえ。いずれにしても学人さんも今は自分の奴隷以外には興味がないようだけれどね」
嫌み半分混ぜられる。メイド服が桜色の唇を開く。
「失礼をいたしました学人様。わたくしは美咲と申しますので覚えてやってくださいね。おかわりをおもちしましょうか?」
美咲は正座したままで、俺の手元のグラスに目を向けた。
すっかり少なくなっていたのでモスコミュールをもらうことにする。
立ち上がってキッチンへ向かう美咲を一瞥して、俺は芹香さんにこの衣装を着せたら恥ずかしがるだろうなあと夢想する。
膝を乗馬鞭で打たれた。
「貸しませんからね」
「え?」
雪花女王がしかめ面をしている。
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