渇望の鬼、欺く狐
#02 鬼と狐
 隣で機嫌良くしている雪から視線を外し、思考を何年も前へと巻き戻した。

 私と雪との出会い。

 それもまた、一つの偶然にしか過ぎなかったのだ。

 そもそも、私は自分の行動範囲内には結界を施している。

 大抵の生物は結界内に入る事は出来ないし、森に生息する動物も本能的に私を恐れているのか、結界の近くに寄る事すらしない。

 旭の居た場所は、結界の境目だった。

 きっとあの場所でなければ、私は結界を巡らせていない場所に足を踏み入れてまで、旭を拾う事はしなかっただろう。

 結界外の事など私には興味もないし、どうでもいい。

 だけど結界内となれば、話は違う。

 結界内に忍び込んだ生物に対して、私の神経は少し過敏になる。

 そして。

 それはあの日も同じだった。

 結界内に生物の気配を感じて足を運ばせれば、そこにはみすぼらしい一匹の子狐。

 体は痩せこけて。

 その目は憔悴していて。

 すぐにでも死んでしまいそうな気配だった。

 なのに狐は私を見上げたあと、そろそろとこちらへと足を進めてきたのだ。

 その歩き方から、足が悪い事が見て取れた。

 何とか私の足元まで辿り着いた狐は、やはり私を静かに見上げている。

 旭に対して、無意識にしゃがみこんでしまった事と同じように。

 この際にも私は無意識にしゃがみこんで、狐と目線の高さを近付けてしまっていた。

 

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