渇望の鬼、欺く狐
#10 来たるべき時
***



 灰色の薄雲が空に張り巡らされている。

 ここ数日、同じような天気が続いている。

 だとすれば、じきに雪が降るのだろうか。



 立ち止まり空を見上げ、思考をよぎらせた――その者。



 急ごう。



 次によぎらせた思考により、その者は再度足を進めだす。

 風になびく薄茶色の髪。

 歩く度に擦れる砂利の軽快な音は、気分の浮き立つその者の微笑に良く似合っていた。

 とは言え、その者と擦れ違う人間たちは、誰もそちらへと視線を寄せる事はしない。

 完璧すぎる程に景色に溶け込むその者は、辿り着いた場所で声を張った。



「ご主人。いるかい?」



 店の奥から出てきた人間は、愛想良く笑顔を浮かべながらに、声を放ったその者へと近付いてくる。



「いらっしゃいませ。今日はどんな物をお探しで?」



 慣れ親しんだとまで言っても、過言ではないやりとり。

 だけど、そのやりとりが始まる直前、その者は首を横に振って見せたのだ。 
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