渇望の鬼、欺く狐
#04 狐と赤子
***



「……はぁ」



 先程から、もう何度目の溜息だろう。

 数え切れぬぐらいには、狐はその口から溜息を漏らし続けていた。



「あ! あー、う、うあー!」



 一体、何が楽しいのか。

 狐の視界の先。

 がに股で歩きながら室内を右往左往する赤子は、目に付く物を手にしては放り投げてを繰り返している。



「あ、おい! それ藍が、お前の為に作ったおしめだろ!」



 鬼が手間隙かけて作ったにも関らず、それを掴み放り投げた赤子。

 狐がそれを咎めても、赤子はその反応を見て笑うばかり。

 狐は苛立ちが募る事を感じながら、赤子の散らかしたおしめを丁寧に畳みなおした。

 いつもなら、鬼と赤子と狐の三人が揃う社の中。

 狐と赤子が二人で過ごしている事には、理由があった。

 何の事はない。

 単に狐は間が悪かったのだ。

 今日は社の中で寝ても許される日だった。

 それ故に、浮かれた気持ちを携えて社に来てみたら。



『雪、丁度良かった。今から旭の飯を作ってくるから、少しの間だけ旭を見ててやってもらえるかい?』

 

 早々に鬼に告げられてしまったまで。



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