渇望の鬼、欺く狐
 昼寝を終えてからも、雪と旭は川で遊んでいる。

 夕方になり、ようやく社へ戻る事となって。

 三人で歩き出せば、その声は届いた。



「抱っこ、抱っこ」



 遊び疲れたのか、単に甘えたいだけか。

 そんな旭を可愛いとは思うけれど。



「あ? 何だよ、仕方ねぇな」



 何故そこで私ではなく、雪にせがむのだろう。

 雪は雪で、満更でもなさそうで。

 軽々と片手で旭を抱き上げて、歩き出していく。



「かーちゃー、かーちゃー」



 雪の肩越しにこちらに向けて手を振る旭に、自分の手を振り返しながら。



 ……社に戻ったら目いっぱい抱こう。



 何となく、淋しさを感じつつ、そんな事を思ったのだった。

< 72 / 246 >

この作品をシェア

pagetop