思いが瞬を駆け抜けて~時代を越えた物語~

3月8日の朝。

「勝頼公、7日に岩殿城を目の前にして小山田信茂の謀反に遭い天目山にて御子息、奥方と共に自害なされました。」

「そうか……お館様、お悔やみ申し上げる。」


偵察から帰ってきた佐助さんの淡々とした報告。

昌幸様は目を閉じ複雑な感情を奥にしまいこんだみたいだった。



私たちが岩櫃城に着いて僅か4日。

佐助さんからもたらされた歴史通りの結果。


そして、この報告によって真田家は大きく変わろうとしていた。


「佐助よ、今より菅平へ行き黒毛の立派な馬を探して参れ。」

「はっ。大将承知しました。」

「急ぎで頼む。人手は何人割いても構わぬ。」

「では早速。」


佐助さんは音もなく一瞬で姿を消した。


佐助さんと久々に話したかったけどそう言うわけにもいかないか。

それにしても馬を探してこいって__


「真琴。」

「はい?なんでしょう?」


名前を呼ばれて姿勢をキッと正す。

不思議と昌幸様の表情には微笑みが。


「幸村を城へ呼び戻しに行ってくれ。」


この時幸村は織田との戦に備えて近くの森に布陣していた。

昌幸様はそこから幸村を呼び戻すように、とのことだ。

「あの…信幸様は?」

「別に小姓を遣わす。幸村と久々に2人だけで話して参れ。」


昌幸様はニカッと笑って言った。

私の頬が熱くなっていくのがわかる。


「ん?どうした?幸村を好いておるのだろう?」

「もう!昌幸様は意地悪です!」


私は足早にその場を後にする。

向かうのは岩櫃城外で戦に備えている幸村の陣。


昌幸様が幸村と信幸様を呼び戻す理由はなんとなく予想はついてる。

__そして過酷な生き残りの道を辿る事も。


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