月夜の翡翠と貴方


「…………うん」

ラサバは、静かに下を向いた。

「みんな、そこは気になっても仕方ないと思う。けど、スジュナは皆が思ってるような子じゃないよ」

ラサバには、そうとしか言えないのだろう。

俺が彼の立場でも、同じ事を言っただろうと思う。

奴隷という身分について、いくら説明しても、きっと意味はない。

今話しているのは、奴隷としてのスジュナではなく、ひとりの子供としてのスジュナのことなのだ。

あの娘が悪い子ではないのは、この二日間で充分にわかったから。

こんな、ふたりのことをよく知りもしない俺とジェイドでさえ、スジュナを良い子だと思っているのだ。

きっと、わかってくれるはず。


ラサバの言葉に、さらに眉をつり上げたロゼが、口を開いた。





静かな空を、鳴く烏が飛んでいる。

空が、黒の混じった茜色に染まっている。


そんな空をぼうっと眺めるスジュナを、私はちらりと見た。

ラサバとルトが裏口に消えてから、ずっとスジュナの目は沈んでいる。

その訳は、訊かずともわかるけれど。


「………スジュナちゃん」

呼ぶと、スジュナはゆっくりと振り返った。

……目が、潤んでいる。


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