月夜の翡翠と貴方


私は唇を噛んで、彼の視線に耐えた。

…必死に、隠してきたのに。

私はこの碧色の髪を濡らして、頬から水を滴らせている。

…いや、滴っているのは、水だけではないのかもしれない。


「…………泣くなよ…」


ふと、私の顔を驚き見ていた青年の顔が、曇った。


「…………っ」

私はいつの間にか、大きな橙の瞳から大粒の涙を溜め、溢れさせていた。


「…ごめん」

青年は、謝る。

まるで本当に、そう思っているみたいに。

奴隷の私へ、彼は眉を下げて、言うのだ。


「ごめん」


橙の瞳から溢れる涙を、その指が掬う。

微かに、指と肌が触れた。


「………どうして、謝るんですか…」


頬を涙で濡らした私は、それでも彼の顔を見た。


「……ごめん」

「…………謝らないで、下さい」


私が、転んだだけなのだ。

彼が謝る必要はない。

きっと、罰が当たったのだ。

エルガのところで、長い間幸せに浸り過ぎたから。

青年の甘さに、油断したから。

全て、私が悪い。



< 32 / 710 >

この作品をシェア

pagetop