月夜の翡翠と貴方


明日売れることもあれば、今日売れることだってある。

いつ、誰が、どんな人間に売られ、やってくるのか。

そして、いつ、誰が、どんな人間に気に入られ、買われていくのか。

それは、誰にも予想出来ないもので。


青年は横目に隣のファナを見ると、ひとつため息をつき、「んじゃ」と言った。

未だぼうっとしているファナの手を掴み、彼は通りへ歩いて行く。

碧色の髪を揺らして、後ろをついていく奴隷の少女。


…昨日まで近くにいたものが、突然もう、二度と会えないものになる。

現実味が湧かなくて、複雑な、感情で。

俺はその後ろ姿に向かって、声を出した。


「ファナ」



驚き振り返った彼女に、何も言わずただ優しく微笑む。

ファナは、一瞬驚いたように目を見開いて。


…少しだけその瞳に涙を浮かべて、とても美しく微笑んだ。


そしてこちらに背を向け、もう二度と振り返らなかった。






エルガの目には、色々な感情が入り混じっているようだった。

『頑張れ』って言葉だけ、しっかりと感じた。


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