月夜の翡翠と貴方


綺麗だな、と思う。

そして、残酷だな、と思う。

この庭を出れば、花一輪さえ育てることの出来ない地に入る。

この花一輪が咲くために、一体どれだけの人の苦しみがあるのだろうか。

取り立てによって咲き誇った花々の美しさに、どれだけの価値があるというのだろう。

庭を出ようとしたとき、そばの木陰からガサ、と音がした。


「あ、あのっ…!」


見ると、そちらにいたのは木と草花に隠れるようにしてうずくまる、セルシアだった。


「え………なにしてんの」


ルトが驚いて、眉を寄せる。

…何故、そんなところに。

セルシアは周りをキョロキョロと見渡すと、こそっとこちらへ近づいてきた。


「村を出られるのですか…?」

小さな声で眉を下げて言うセルシアに、ルトが不思議そうに「ああ」と返事をする。


「じゃ、じゃあっ…」


< 436 / 710 >

この作品をシェア

pagetop