月夜の翡翠と貴方


…いや、あのときは正直、捕まる気はなかったのだが。

しかし、今はもう抵抗する気も、まして逃げることなど考えていない。

「私は、逃げないよ」

そう言うと、彼はふ、と笑って。


「…まぁ、逃がすつもりもないけどな」


そのとき、サァ……と、強く風が吹いた。


橙の瞳が、揺れる。

碧色の髪も、揺れる。


月の光に照らされて、淡く輝き始める。


そのとき初めて、私は少しだけ笑った。




< 82 / 710 >

この作品をシェア

pagetop