心の闇
第二話:ヤツデ御殿のかまきり


キリコ キリコ キリコ…

手のひらを空いっぱいに広げたヤツデの葉の上に、おおかまきりの雌が一匹、鎮座しております。

大きな牙にエメラルドの瞳、すらりと伸びた鎌に豊満な新緑の腹。

それはかまきりの女王でございました。

元来かまきりはヤツデの暖かい葉が好きでありましたから、女王の御殿もヤツデの葉の上なのでざいます。

女王は毎日ヤツデの葉に寝そべりながら

「愛されたい」

と願ったのでございます。

女王とて所詮は女でございます。

この女もまた、他の雌かまきりのご多分に漏れず愛を欲しておったのです。

キリコ キリコ キリコ…

女が願うたび、鎌は嫌な音を立てたのでございます。

それはヴァイオリンの放つ不協和音の様な、全くもって嫌な音でございました。

しかしながら女には、己の発する不協和音など耳には入らなかったのでございます。

ある晩夏の事でございます。

そんな女の御前に、一匹の雄かまきりが現れたのでございます。

女より一回り小さな、深い緑の青年でありました。

女と男が目を合わせた瞬間でございます。

それは女が己の欲望を満たせると確信した瞬間でもございました。

それから先は、幸せな時間が流れたのでございます。

男は女の欲望に忠実に応えたのでございます。

しかし幸せな時間は、女の心に咲いた、真の欲望により、もろくも枯れ果てたのでございます。

「お腹空いた…」

この女もまた、他の雌かまきりのご多分に漏れず男を肉体の糧としたのでございます。

それはそれは、美しい性というものでございました。

ヤツデの葉の上には、もう女以外人っこ一人いなかったのでございます。

それから先をお話しましょう。

幾度となく血をすすり肉を喰らった女は、何度目かの産卵で死んだのでございます。

欲望に生きた女のあっけない最期でございました。

女の死骸はヤツデの葉から風に乗ってふわりと落下し、野を急ぐ動物に踏まれ、雨風に打たれ、やがて土となったのでございます。

女の真の欲望が、愛でなかった事など、ヤツデの葉にはとんと分からぬ事なのでございました。

~了~
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