六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
台所では、一人の女性が忙しそうに働いていた。
最初にこの家に来たとき、あたしを『姫様』と呼んだ人だ。
「あのー……」
「はい?あっ、姫様!」
明らかに自分より10歳は歳上であろう人にそんな事を言われ、
コケてしまう。
「何でしょうか、姫様」
「あたしはまりあです。
恥ずかしいから、“姫様”はやめてください」
「でも……」
「夕飯の準備ですよね?
手伝わせてください」
「えぇっ、困ります姫様!」
うーん、どうやってもお姫様扱いなの?
……負けるもんか。
「急に人数が増えたから、忙しいでしょう?」
「えぇ、あ、いえ、大丈夫です」
相手は頑固そうなので、あたしは反則を使う事にした。
「……命令です。
手伝わせなさい」
こうしてあたしは、台所に潜入する事に成功した。