六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】


突然ゴウンという音がして、エレベーターが止まった。


いや、階数表示がないから、突然に思えたのかもしれない。


エレベーターの扉が開くと、すぐ前にもう一つの扉が見えた。


重そうな鉄の扉。


男がその前に立つと、扉は内側からゆっくりと開いた。


「げっ、広っ!」


その中は……。


太一が言ったように、ただ広いだけの空間が広がっていた。


家具も何も無い。


ただ不吉な灰色の壁と床があるだけ。


そして、その先に……。


「清良!」


キリストの処刑のように、十字架に張りつけられた清良を見つけた。


清良は気を失っているらしく、頭を垂れたまま。


その代わりに、横に立っていた伊奈孝太郎が、こちらを見た。


「ようこそ、皆さん。お会いしたかったですよ」


低い声が、巨大な部屋中に響き渡る。


「清良を返してください」


あたしは勇気を振り絞って一歩前に出た。


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