届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エキレズニ愛シ続ケタ…

42 話せなかった事実


言葉をなくしたあたしに、霧生くんは追い討ちを掛けるように話してくれた。

あたしと知り合う前だった--------------。


「それは院長室に、書類を届けに行った時だったよ。」

院長が誰かと話していた。

来客かと思い、しばらくドア越しに様子を見ていた。

だけど、会話の内容が明らかにおかしい事に気付き始めた。

「アメリカに居る引退したジイさんが、認めないと言っている。」

それは院長の声。

「お祖父さんですか?」

その問いかけに答えたのが院長の長男の秋洋。

「ああ。実際に蒔宮の血を受け継いでいるのは、紗羽しかいないと言い張ってな。だから、秋洋には財産はあげられないと。」

「どういう事ですか?」

「あの子の価値は、ジイさんが死ぬまでだ。」

「紗羽の価値?」

「ああ。今朝、エアーメールが来てな。財産は紗羽に譲ると言い出しやがった。あれほど、男以外は認めないと言っていたジイさんなのに。やっぱり、血の繋がりが大事なんだとさ。」

「じゃあ…。」

「あんな娘、価値なんか無いと思っていたが、財産を受け継ぐまでの小道具。好きにするといい。」

「好きにとは?」

「お前達がデキてるのは知っている。」

「それは…。」

慌てて取り繕うと言葉を探しているのは、ドア越しでもよく分るくらいだった。

「妊娠でもしてみろ。蒔宮の正当な後継者だ。」

秋洋の肩を笑いながら叩いていた。

それを聞いた時、なんてかわいそうな子かと思った。


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