届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エキレズニ愛シ続ケタ…

65 ハジマリ


ふと男が足を止めた。

そこは、ごく普通の18階建てのマンション。

「どこ?ここ…。」

マンションを見上げながら問いかける。

「オレの家。」

サラッと答えるだけで。

エレベーターの9階を押した。

「何でアンタの家なの!?」

意外な場所に少し戸惑って聞き返した。

「そんな濡れた格好だったら、署に連れて帰ってもカゼひかすだけだし、オレの家が近かったからな。」

近いって。

それだけで、ここに連れてきたわけ?

まさか…

危ない人?

ゴクリと息を飲みながら。

チラリと男の横顔を見上げた。

どうやって逃げよう?

考えている時間もなくて。

連れてこられたのはワンルームの部屋だった。

「ナニ?この家!!」

部屋の中に入って、びっくりするあたし。

だって、ワンルームなのに廊下と部屋をさえぎるドアを開けると、正面に大きな窓があって。

カーテンを開けると夜景が目に飛込んでくる。

それにカウンターキッチン。

ソファとベッドとテレビと…。

家具が少ないから広く感じるのかもしれないけど、明らかに広いってすぐに分かる。

ボーゼンと立ちつくしながら部屋を見渡す。

「よく安月給でこんな部屋に住めるね。」

ボソッと出た言葉は、そんなイヤミしかなかった。

「支給品だ。」

怒ることもなく軽く答えた。

「えっ?支給品ってなに?」

聞き間違い?

そう思ったのに。

「そう…。」

それ以上を口にしなくなった。

「何の支給品?どうせ、大学とか行っている時に、ホストとかやって貢がせたんでしょ?」

ハイテンションで、夜景の見える窓にピッタリと張り付いている。

「そんなんじゃないよ…寮みたいなもんだ。それより、お前じゃなくて警察のお兄さんと呼びなさい。」

あたしの頭にポンとタオルを置いた。

「お兄さんじゃなくて、オジサンでしょ?ミエミエのウソにダマされる刑事なんて聞いたことないし。」

ニヤッと笑うと、頭上のタオルをつかみながら、男の顔をマジマジと見ている。

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