Once again…
変わらないもの



 出社すると、当然のような顔をして並んで歩く小栗さんを見て、営業1課では大盛り上がりをした。
「朝から見せ付けてくれるじゃねぇか、小栗!」
「やっと藤森さんがOKしてくれたのか?」
「いや、まだOK貰えないんすよ。子供の許可は取れてるっていうのに…」
「何だよ、押しが甘いんじゃないのか?」
「そうなんすかねぇ」
 …無視よ、無視。
この人達のペースに乗って、焦ってちゃだめ。
知らん顔しておくのが一番なのよ…。
「何だよ綾子、無視しなくったっていいだろ?」
「どうにもなってない事で、朝から騒がないでくれますか? それと、会社で呼び捨てなんかしないで欲しいんですけど」
「あーやーこーちゃーん。朝から手厳しいねぇ」
「桑田先輩、申し訳ないですが私の名前は【あやこ】ではなく【あやね】ですので」
「あれー、そうだっけー?」
「そうですよ、桑田さん」
「そっか、悪い悪い」
 なんだか勝手に盛り上がったままの男性陣は無視して、始業前にやっているデスク周りの拭き掃除を始める。
それを済ませ、やっとPCのログインを始める。
昨日持ち帰って作った資料のデータを確認し、必要部数をプリントする。
そしてその間に、パワーポイントでのプレゼン資料もチェックすると、それも一緒にUSBメモリに保存する。
 私が到着したのは始業20分前。
ここまで急いでやって、丁度始業時間になって朝礼を始める。
…が、焦ってこのデータを作らせたはずの杉さんがまだ来ない。
チラッと見たホワイトボードにも、今日の出先は記載されているけれど直行にはなっていない。
という事は、普通に出社してきてから出掛ける事になっていたはずだ。
「それから…小栗、藤森」
 急に名前を呼ばれて、慌てて朝礼に意識を戻す。
「はい」
「は、はい」
「今回、杉が扱っていた案件の内容を把握しているか?」
「そうですね、大まかにですが…」
「藤森はどうだ?」
「は、はい。昨日資料を作るようデータを渡されましたので…大体は…」
「…また直前に渡したのか?」
「俺が使ってばかりだからって言ってましたけどね。パワーポインとのデータすら作ってなかったですよ、杉さんは」
「あいつは本当にやる気があったのか? 兎に角、今日プレゼンがあるのは解ってるか?」
「はい、そうらしいですね。藤森も仕方なく持ち帰って、殆ど徹夜でデータを作ってきてますから」
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