Once again…
もう一度…


 彼が口にした【もう諦めたほうがいいのかって悩む事もあった】という科白。
それを考えると、随分我慢させてきたんだなって思った。
バツイチだから…子持ちだから…離婚したばっかりだから…。
そうやって、彼にたくさん自分を抑えさせて、私は自分の事ばっかりだったんだって思う。
「ごめんね、修平…」
 藤森に連絡をしてから2日。
今日は…約束の日だった。

「もしもし…私です。近くまで来たので…」
「わかった。ビルの中に喫茶店があるだろう? そこにいてくれ」
 彼が勤務しているビルの中には、小さなカフェがある。
そこに入って、グレープフルーツジュースを頼んだ。
5分程で出てきたジュースには果肉が入っているのを考えると、グレープフルーツを絞って作っているんだろう。
「待たせたな」
「いえ…たいして待ってません」
「そうか…で、話って?」
「翔太の事です。今後の事を確認したいんです」
「今後の事? 養育費なら払うと言ったろう?」
「養育費は関係ないわ。あなたの事だもの、すぐに都合が悪くなって払わなくなるに決まってるわ」
「そんな事はない。大丈夫だ」
「兎に角、今日はそんな話じゃないの。あなたは今後、翔太に会おうとする気はないって本当ですか?」
「何だ? 藪から棒に…」
「あなた、私と別れる原因になった方とも別れたんですってね。お腹も大きいのに…」
「いらないと言っている子供を、あいつは産むと言って聞かなかったからな。今一緒にいるヤツは、子供が嫌いなんだとさ。だから安心して一緒にいられる」
「じゃあ、翔太にも会いに来ないでいただけますね?」
「あ? 元々そのつもりだ。安心しとけよ」
「そう、よかった…」
「新しい男でも出来たのか?」
「あなたには関係ないことです。じゃあ、私はもう用事もないですし、帰ります」
「そう、じゃあ元気でな」
 翔太には会う気はない…それが聞けただけでも良かった。
それだけ解れば、私は前を向ける。
そんな人だったんだと、きれいさっぱり忘れられるかもしれない。
だから、私も彼の事…修平との未来を考える事が出来るかもしれない…そう思った。


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