あのこになりたい
でもここで生きていくには耐えるしかなかった。



お兄ちゃんとママが何か話しているのか、ママの泣き声と声がわりでかすれているお兄ちゃんの低い静かな声が1階から聞こえていた。


話しの内容までは聞こえない。



私は、平和な家族の中で笑う自分の姿を想像しながら泣いた。



この家に生まれてこなければ…


もっと幸せだったに違いない。



その後で、また違う想像をする。



私が家を出て行方不明になればママは私を心配するだろうか…



私がいなくなればママは後悔して泣くだろうか…



私はまだ子どもで、そんな想像をするものの、実行に移すことは1度もなかったし…


綾になりたいといくら願っても綾になることはもちろんなかった。



この日が、迫り来る思春期の入口だったのだろうか…と、今になって思う。



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