あのこになりたい
兄には塾に通うとか学校で勉強するとか…


逃げ場はいくらでもあったのに、早く帰って来て私をかばってくれた。


そのせいで滑り止めに受けていた高校に行くことになったが…


優等生タイプの兄は学校でだんだん浮いていき、それはいつしかいじめへと変わっていった。


私達家族は、何もかも兄に甘えていたから、兄の変化に誰も気付かなかった。


体にできたあざ。


ボロボロになった教科書。

いつも空っぽの財布。



どんなに苦しかっただろう…



ある日、近所の人が家に飛び込んで来た。


「な、何ですか…!」


母は叫んだ。


近所の人に抱えられて兄が立っていた。


「線路で立ってたんだよ…」


顔はあざだらけで、口と鼻からは血が流れていた。


制服のボタンはほとんどひきちぎられてカッターシャツも泥だらけになっていた。


靴は履いていなかった。


「どうしたの!文康!!」

朝はきっちりした格好で出かけたのに。


兄はひと言。


「もう…疲れたよ…」


そう呟いた。
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